この携帯電話機は簡単にいうと、スマートフォンにオーディオの世界を激変させたiPodを融合させた 商品です。その結果、スマートフォンの世界をも大きく塗りかえる新しい商品となりました。2009年9 月時点での発売総数が3000万台を記録するという奇跡的な成功商品です。 機能面での新しさ以外にも革命的というべきインダストリアル・デザインをこの商品には見ることが できます。基本的にはiPodのデザインをベースにしています。iPodが市場にあらわれた際にもそのデ ザインの美しさと素材の使い方は驚きを持って迎えられましたが、 iPhoneはその比ではありません。 それでは、このデザインのどこが特別なのかを仔細に見てみます。本体を覆うケースは、溶けたチョ コレートを流した様な流麗な形をしています。ここに設置されたスイッチで ON/OFF、リセットなどの 基本操作を行いますが、その小さなシャープエッジを持ったステンレスのキーには普通はあるはずの隙 間がありません。原理上、隙間がないとスイッチが引っかかって、動かなくなる可能性があります。そ れを避けるためキーと孔の間には、必ず隙間を設ます。少しゆるくつくっておきます。これを公差とい います。しかしiPhoneには隙間はありません。少なくとも隙間は見えません。ルーペで覗いてみても 隙間は見えません。上部にシムカードを装着する蓋が付いていますが、ここにも隙間はありません。ホ ワイトボディのもので、やっとうっすらアセンブリーラインが見て取れる程度です。ブラックボディの 商品では、いわれなければ気がつきません。しかも、それらの孔はフライスを使って後加工された孔で す。なんと、底部のインターフェイスの三次元の曲面の孔の周囲には、面取りまで施されています。 前面の表示部分はガラス製で、購入時の説明書には、わざわざガラスなので取り扱いに注意するよう にとわざわざ書いてあります。その周囲にステンレスの鏡面仕上げのリングがついていますが、ここに も隙間は見えません。さらに、その裏側がスイッチが付いた本体ケースですが、ステンレスのリングと の間にはやはり隙間はありません。触ればやっと段差が感じられる程度で段差0.01mm以下でしょう。 推定ではこのリアケースはアクリル製。インジェクション成形後にパーティングラインのバリを削り 落とし、さらに磨いていると思われます。その削って磨いて塗装をかけた後の段差が0.01mm以下なの です。驚きというほかありません。 次の製造工程としては、アクリル表面にロゴと型番などの表記をメッキ。光沢のポリエステル塗装。 最後に前述のキーホールなどの孔開け加工をして出来上がりですが、これらの加工方法の幾つかは通常 の電気製品ではあり得ないのです。 MacBook Proと同様になぜこのような加工が出来たのか?謎です。強いて言うならば、万年筆や腕 時計には、このレベルの加工の例はあります。パーツのメーカーは新潟県のツバメ産業だとか。でき上 がったiPhoneは、精緻というにふさわしいデザインとなりました。この様な精密なディテールを持っ た携帯電話は他に見た事がありません。 多くの電気製品のデザインがコストダウンの嵐を乗り越えられず、樹脂メッキと金属色塗装で喘いで いる間に、インダストリアルデザインの世界は全く新しい動きを見せはじめたのです。 ついでに、この製品は電池交換を行わず、¥9,000也で本体交換となります。 生産技術面でもサービス面でも革命なのです。 高さ115.5mm × 幅62.1mm × 厚さ12.3mm、重量135g、価格¥76,320TOP画面に戻る